酒肴盃

さけさかなさかずき

こんな共鳴はイヤだ2020〜映画「ミッドサマー」〜

 

こんにちは。
日本公開が決定したあたりから、Twitterをザワザワさせていた映画、「ミッドサマー」を観てきました。
実際に公開してからは注意喚起も多く流れていた印象がありますが、メンタルが怪しいくせに結局好奇心に勝てず。ネタバレを粗方読んで、多少の耐性をつけてから鑑賞に臨みました。
めっちゃ面白かった!というほどではないですが、かなり楽しく観ることが出来ました。以下、ネタバレしながら感想をメモしていきたいと思います。

 

 

1.オープニングはちゃんと怖かった
そう、本当に冒頭が怖かったんです。
メンヘラ風味な主人公のダニー、おそらくその元凶であろう精神疾患を抱える妹、主人公をウザがるその彼氏クリスチャン。人間関係の表と裏を両方とも観客に見せつけてきて、うわあ監督さん意地悪、と思ってしまいました。


特に、家族の死と天涯孤独となった自分の身の上を嘆く主人公を抱きかかえる彼氏の表情といったらありませんでした。

なにあの顔。

やべーよ俺やべーとこ手出しちまったよと言わんばかりの顔。

クリスチャンの中途半端な優しさがよくわかるシーンだったなあと思います。 

 

クリスチャンの友人たち、ペレ、ジョシュ、マークとのやりとりも生々しく形式的で、ダニーの居場所のなさがとてもよくわかる。

ハーメルンの笛吹き男として立派に勧誘役を務めたペレだって、この時はまだあんまりダニーの味方らしい顔を見せなかったですよね。もちろん、「僕の両親も死んでるから君の気持ちはわかる」というようなことは言ってましたけど、それはダニーにしか言わないですよね。他の人物には伝わらないように、ペレ自身がものすごく気をつけていたように思います。


オープニングが1番怖かったと感じたのは、画面が全体的に暗かった、というのもあるかなあ。ミッドサマーは明るいところで行われるホラー、と聞いてたので、そのギャップにやられたところもあるのかも。これから始まることへの恐怖が増幅されるような色や音楽が使われていたなあと思います。 

 

 

2.バッドトリップはやっぱ怖い
さっきオープニングが怖い、と書いたところですが、村に着いてからも前半はわりと怖かったかも。
なぜならばダニーのバッドトリップの頻度が高めなので。
わたしも若干メンヘラなきらいがあるので、ダニーのメンがヘラるともれなく影響を受けがちでした。

各所で言われているほどは引っ張られなかったので、やはりわたしはまだ病院や薬のお世話になるほどじゃないなとも思いました…。


ダニーが村の入り口で脱法ハーブをキメたときも、投身自殺を目撃させられたときも、とにかくダニーの見ている幻覚が1番怖かった。


人間誰しも、ふとしたきっかけで嫌な思い出が蘇る経験って一度や二度はあるもんじゃないですか?
わたしはあそこまでひどいフラッシュバックは経験ないですが、一瞬であの日の記憶が蘇ってまるで今そうであるように感じられるときの不快感って半端ないですよね。
冷や汗のかきかたや、息のあがりかた、今目の前で見ている光景とあの日見たものとのダブりかた、どれを取ってもよく表現されてて怖いなあと思います。


ダニー、とにかく1人にされるのと、置いていかれるのが嫌なのね、ということがよく分かってしまう。

ダニーの感じる恐怖は見ている側が共有すべき(と監督が考えているだろう)恐怖なんですよね。マジで何度でもダニーの心を壊したきっかけがプレイバックされるので、やはり怖い。なんとなく映像が乱れた感じとか、徐々に焦点が定まって嫌な光景がはっきりしていく様子とか、本当に怖くて勘弁して欲しかったです。


正直、投身自殺からの顔面破壊は思いのほか耐えられるタイプのグロだったので、なおのことバッドトリップへの恐怖が増した。
なんかあれ、サバンナでライオンが食い散らかしたあとの獲物みたいな感じじゃなかったですか? わたしは途中からワイルドライフやんと思って恐怖を感じなくなってしまいました…血も出たてホヤホヤで色鮮やかだし…

 

 

3.共鳴の恐怖
いろんな方がおっしゃってますけど、ミッドサマーに出てくるホルガ村の人々のカルト感、めっちゃ怖いじゃないですか?
それの怖さが1番よく出てくるのって、誰かの激しい感情に、周囲の村人が次々に共鳴していくところだと思うんですよ。


というのも、わたしは、喜びでも、悲しみでも、怒りでも、感情が伝播していくのって、そんなに怖いことだと思っていなかったのです。
どちらかというと、「共感」には好意的。なので上には敢えて「共鳴」と書きました。


これは、わたしが舞台やライブといった生のエンタメに魅了されているから、というのが多分大きい。あの空間でしか味わえないモノの力みたいなのを信じているんですよね。

それによって生じる感情がどんなものか、っていうのは重要ではなくて、何か感情が揺り動かされるようなことが起きて、その状況と感情の揺れとを同時に体験した人間がいることが大事なんですよ。わたしにとっては。


確かにホルガ村の人たちも、他者の感情の揺れとそれが起きた状況を体験していたわけですけど、これがびっくりするくらい気持ち悪かった。


なんででしょうね?


自分では今のところ、ホルガ村の人たちの塊感が気持ち悪いのかな、と思ってますが、説明が適切なのかはよくわかりません。塊感、わたしとしては個がなく全でしかない様子を言っているつもりですが、これであってるかなあ。


同じ状況にあって、同じように感情が揺れたとして、後に残るものは人それぞれでないとおかしいと思うんです。何事にも感じるための土台が必要ですし、その土台は人それぞれ異なるものだから。
それが全部一緒くたに動いているかんじが、気持ち悪いのかなあと…。


もう一回くらい観たら分かりそうな気もしますが、あんまりリピートする気は起きないので、このまま放置かなという気がします。

 

 

4.恐怖とおかしさの間
そんなこんなで前半を中心に濃淡のある恐怖を味わわせてくれたミッドサマーなんですが、わたしは結構なシーンで思わず笑ってしまいました。
わたしというか、一緒に観に行った友人が中盤以降かなりの頻度でツボっていて、それに引っ張られて笑っていたというわけです。
まあでもわたしたちが観た回で他にウケてる人いなかった気がするので、やっぱり笑わないのが普通なんだと思います。というか、それまでの流れがなければ笑えたかもしれないけど、いかんせんこれまで観たものが笑わせてくれない感じだったのかも。


特に笑って仕方なかったのは、ホラー映画随一のきしょいセッのシーンと名高い、マヤとクリスチャンのアレが行われるシーン。
これも途中まではまだ耐えられたんですよ。
薬で戦闘態勢に強制突入させられたクリスチャンが、扉を開けていざマヤとのバトル(?)に臨む。ただし村の女たち(全裸)の監視付きで、というところまでは。


しかしながら、マヤの喘ぎに対して、監視員の一人がしゃがんでマヤの手を取って歌い始めたところ、あそこから色々おかしくなってしまいました。 


あれがホルガ的共鳴の一種なのは分かります。とにかく赤ちゃんが欲しいマヤに身籠もる瞬間が近づいてる、それはマヤにとってきっと大きな喜びですから、あの歌はその喜びに対する応答なんだと思います。
2人の腰の動きに合わせて監視員たちがゆらゆら左右に揺れるのも分かります。あ、物理的にも共鳴するんだ、まさしく共振じゃん、などと考えながらですが観ることは出来ました。


ただ、先ほどとは別の監視員が、クリスチャンの腰を押してるのは無理すぎた。


何あのセッ補助。


もはや共鳴でもなんでもなかったと思うのですが、わたしだけでしょうか。

あの補助してた監視員さんからは、絶対無駄撃ちさせないという強い意志を感じました…。

その意志は言わば村の意志であって、あの方個人の意志ではないんでしょうけど、クリスチャンに同調してたわけではないよなあ。


そしてとどめと言わんばかりに、唐突にかかるモザイク。

今の今まで丸出しだったのになんで今更そんなんかけるんだろう、と思ったらもう笑いが止まらなくなってしまいました。

あまりにも意味がわからないと人は笑うんだと思います。

あんな生々しさゼロのセッ、初めて見たしなんか愉快だった…あれはセッではなく交尾って言ってる人もいたし、面白がっててもそんなに悪くない気がしてきました。

 

 

5.明るい陽の下でのグロだったかもしれない
鑑賞前によく聞いた、ミッドサマーの包み隠されないグロ描写。
まあ確かにその通りだったんですけど、思いのほかグロくはなかったな、という印象です。


なんでだろう、血があまりに鮮やかだからかな。

個人的に、より赤黒くてドロドロしてる方がより血液らしさを感じるので、あ〜出てんなあというくらいで特に何も思わなかったです。


特に手をナイフで切って石になすりつけるところ、ナイフが食い込む様子の方が全然怖かった。


顔面破壊シーンも、破壊される瞬間は確かにちょっとウッとなりましたが、破壊された後の顔面はサバンナのライオンが食べたあとの獲物みたいな感じで、結構いけました。ワイルドライフだったよね。さっきも書いたんですけど。
なんか骨が割れると牙っぽく見えて、草食動物感が増すんですよねえ。
足が変な方向にひん曲がってるのも同じくワイルドライフでした。ええ。


あと、サイモンが血のワシにされて見つかるシーン。

あれも、肺って思ってたよりピンクだなあとか思ってたら終わってしまった。

目をくり抜いて花つっこむのはさすがにどうかなあと思いますけど。
自分にとって、生皮剥がれてそれを被られたりするのは、そこまで気持ち悪くないんだと気づきました。


なんというか、剥製っぽいというか、人間も動物なんだし剥製に出来ちゃうよねうんうん、といった感じ。
同じくマークの剥製も、「あ〜ほんとにお◯ん◯んプルプルしとる…」という感想にとどまりました。

 

 

6.失恋の復讐としてはめちゃくちゃ怖かった
結局最後まで引っかかっていたのが、「クリスチャンってこんだけのことで熊に突っ込まれて焼かれたの?さすがにかわいそうでは?」ということでした。


いや、たしかにそんなに善人ではないですよ。

ダニーへの優しさが中途半端だし、いくらクスリをキメてる状態とはいえ彼女以外の女とやっちゃうし。

友人たちみんなでダニーを疎ましく思ってグズグズ言ってるのも、胸糞悪いなとは思います。


でもやっぱり、人間熊に突っ込まれて焼かれなきゃいけないような罪って、そうそう犯せないよね!!?! クリスチャンのやったことってそこまでのことではなくない!!?!って思うんです。


まあ、監督さん的にはそうじゃないらしいんですけど!
恋人と別れて、恋人を焼き殺す映画作るのは、価値観合わねえなあという感じです。


ジョシュ、マークはタブーを犯したし、そのタブーはホルガ村の人たち的には完全アウトですから、ああなっちゃうのも仕方ないなと思いますがね。


同じように、クリスチャンの行動はダニーにとっても完全アウトなことだったんでしょうけど。

いまいちダニーに共感しきれなかったところがあって、クリスチャンなんてあんな目に遭って当然だとまでは思えなかったんですよね。


かわいそう。


でも、クリスチャン以上にサイモンやコニーの方がかわいそうだと思います。

全然描かれてなかったけど、騙されて連れてこられたんだし、飛び降り自殺の風習であそこまで取り乱すのも仕方ないですよね。
うーん、このへんはディレクターズカット版で説明されるのかしら。されるならやっぱり観たいですね。

 

 

7.その他色々
マヤがめっちゃ可愛かったと思うんです!
特にクリスチャンとやったあと。
真っ赤なリップがすっごくよく似合うし、もう村の少女ではなく村の女なんだとよく分かるいい描写だと思います。
あんな限界自給自足生活みたいな村でどうやってあんな唇にするんだろう、とも思いますけど、そういうことはツッコんだら負けなのかな。


あと、お衣装はわりとずっと可愛かった。
ホルガ村の刺繍が華やかな衣装はかなり好きです。
ぱっと見の綺麗さしかわたしには分かりませんが、ちゃんと意味のあるルーンが刺繍されているそうで。
凝ってんなあ。
特に女性陣は花かんむりも被るから(男性でがっつり刺繍入ったお衣装の人っていなかったような…マヤとのあれの前のクリスチャンくらい?長老の次に偉そうな感じの人たちは無地の衣装だったような)、みんなみんな可愛くていいわね、と穏やかな気持ちになりました。
お衣装が派手で可愛いときは、だいたいみんなクスリキメてるときなのがちょっともったいないかな。
笑顔が可愛いけど、やっぱりキマってるのでね…。

 

 

8.まとめ
面白かったけどそんなに期待したほどじゃなかった、ミッドサマー。
でもこういう感想を書いちゃうくらいには心に残ったし、ディレクターズカット版を見て、もう少し補完したいなと思うところです。
まあ、時間があればの話ですね!

それでは!